岡本 綺堂
半七捕物帳
一
ある年の正月下旬である。寒い風のふく宵に半七老人を訪問すると、老人は近所の銭湯から帰って来たところであった。その頃はまだ朝湯の流行っている時代で、半七老人は毎朝六時を合図に手拭をさげて出ると聞いていたのに、日が暮れてから湯に行ったのは珍らしいと思った。それについて、老人の方から先に云い出した。
「今夜は久しぶりで夜の湯へ行きました。日が暮れてから帰って来たもんですから……」
「どこへお出かけになりました」
岡本 綺堂
一
ある年の正月下旬である。寒い風のふく宵に半七老人を訪問すると、老人は近所の銭湯から帰って来たところであった。その頃はまだ朝湯の流行っている時代で、半七老人は毎朝六時を合図に手拭をさげて出ると聞いていたのに、日が暮れてから湯に行ったのは珍らしいと思った。それについて、老人の方から先に云い出した。
「今夜は久しぶりで夜の湯へ行きました。日が暮れてから帰って来たもんですから……」
「どこへお出かけになりました」