岡本 綺堂
半七捕物帳
一
秋の宵であった。どこかで題目太鼓の音がきこえる。この場合、月並の鳴物だとは思いながらも、じっと耳をすまして聴いていると、やはり一種のさびしさを誘い出された。
「七偏人が百物語をしたのは、こんな晩でしょうね」と、わたしは云い出した。
「そうでしょうよ」と、半七老人は笑っていた。「あれは勿論つくり話ですけれど、百物語なんていうものは、昔はほんとうにやったもんですよ。なにしろ江戸時代には馬鹿に怪談が流行りましたからね。芝居にでも草双紙にでも無暗にお化けが出たもんです」
岡本 綺堂
一
秋の宵であった。どこかで題目太鼓の音がきこえる。この場合、月並の鳴物だとは思いながらも、じっと耳をすまして聴いていると、やはり一種のさびしさを誘い出された。
「七偏人が百物語をしたのは、こんな晩でしょうね」と、わたしは云い出した。
「そうでしょうよ」と、半七老人は笑っていた。「あれは勿論つくり話ですけれど、百物語なんていうものは、昔はほんとうにやったもんですよ。なにしろ江戸時代には馬鹿に怪談が流行りましたからね。芝居にでも草双紙にでも無暗にお化けが出たもんです」