国木田 独歩

号外

ぼろ洋服を着た男爵加藤が、今夜もホールに現われている。彼は多少キじるしだとの評がホールの仲間にあるけれども、おそらくホールの御連中にキ的傾向を持っていないかたはあるまいと思われる。かく言う自分もさよう、同類と信じているのである。

ここに言うホールとは、銀座何丁目の狭い、窮屈な路地にある正宗ホールの事である。

生一本の酒を飲むことの自由自在、孫悟空が雲に乗り霧を起こすがごとき、通力を持っていたもう「富豪」「成功の人」「カーネーギー」「なんとかフェラー」、「実業雑誌の食い物」の諸君にありてはなんでもないでしょう、が、われわれごときにありては、でない、さようでない。正宗ホールでなければ飲めません。

感心にうまい酒を飲ませます。混成酒ばかり飲みます、この不愉快な東京にいなければならぬ不幸な運命のおたがいに取りては、ホールほどうれしい所はないのである。

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