小栗 虫太郎

人外魔境

リオの軽口師

折竹孫七が、ブラジル焼酎の“Pinga”というのを引っさげて、私の家へ現われたのが大晦日の午後。さては今日こそいよいよ折竹め秘蔵のものを出すな。このブラジル焼酎を飲りながらアマゾン奥地の、「神にして狂う」河の話をきっとやるだろう……と私は、しめしめとばかりに舌なめずりをしながら、彼の開口を待ったのである。

ところが、その予想ががらっと外れ、意外や、題を聴けば「水棲人」。私も、ちょっと暫くは聴きちがいではないかと思ったほどだ。

「君、そのスイセイとは、水に棲むという意味かね」

青空文庫の作品カード