夢野 久作

名君忠之

一

この話の中に活躍する延寿国資と、金剛兵衛盛高の二銘刀は東京の愛剣家、杉山其日庵氏の秘蔵となって現存している。従ってこの話は、黒田藩に起った事実を脚色したものであるが、しかし人名、町名と時代は差障りがあるから仮作にしておいた。悪からず諒恕して頂きたい。

「不埒な奴……すぐに与九郎奴の家禄を取上げて追放せい。薩州の家来になれと言うて国境から敲き放せ。よいか。申付けたぞ」

数本の桜の大樹が、美事に返咲きしている奥庭の広縁に、筑前藩主、黒田忠之が丹前、庭下駄のまま腰を掛けていた。同じ縁側の遥か下手に平伏している大目付役、尾藤内記の胡麻塩頭を睨み付けていた。側女を連れて散歩に出かけるところらしかった。

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