芥川 竜之介
三つの窓
1 鼠
一等戦闘艦××の横須賀軍港へはいったのは六月にはいったばかりだった。軍港を囲んだ山々はどれも皆雨のために煙っていた。元来軍艦は碇泊したが最後、鼠の殖えなかったと云うためしはない。――××もまた同じことだった。長雨の中に旗を垂らした二万噸の××の甲板の下にも鼠はいつか手箱だの衣嚢だのにもつきはじめた。
こう云う鼠を狩るために鼠を一匹捉えたものには一日の上陸を許すと云う副長の命令の下ったのは碇泊後三日にならない頃だった。勿論水兵や機関兵はこの命令の下った時から熱心に鼠狩りにとりかかった。鼠は彼等の力のために見る見る数を減らして行った。従って彼等は一匹の鼠も争わない訣には行かなかった。
「この頃みんなの持って来る鼠は大抵八つ裂きになっているぜ。寄ってたかって引っぱり合うものだから。」