イエイツ ウィリアム・バトラー

「ケルトの薄明」より

※(ローマ数字1、1-13-21) 宝石を食ふもの

平俗な名利の念を離れて、暫く人事の匆忙を忘れる時、自分は時として目ざめたるまゝの夢を見る事がある。或は模糊たる、影の如き夢を見る。或は歴々として、我足下の大地の如く、個体の面目を備へたる夢を見る。其模糊たると、歴々たるとを問はず、夢は常に其赴くが儘に赴いて、我意力は之に対して殆ど其一劃を変ずるの権能すらも有してゐない。夢は夢自らの意志を持つて居る。そして彼方此方と揺曳して、其意志の命ずるまゝに、われとわが姿を変へるのである。

一日、自分は隠々として、胸壁をめぐらした無底の大坑を見た。坑は漆々然として暗い。胸壁の上には無数の猿がゐて、掌に盛つた宝石を食つてゐる。宝石は或は緑に、或は紅に輝く。猿は飽く事なき饑を以て、ひたすらに食を貪るのである。

自分は、自分がケルト民族の地獄を見たのを知つた。己自身の地獄である。芸術の士の地獄である。自分は又、貪婪止むを知らざる渇望を以て、美なる物を求め奇異なる物を追ふ人々が、平和と形状とを失つて、遂には無形と平俗とに堕する事を知つた。

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