芥川 竜之介

横須賀小景

カフエ

僕は或カフエの隅に半熟の卵を食べてゐた。するとぼんやりした人が一人、僕のテエブルに腰をおろした。僕は驚いてその人をながめた。その人は妙にどろりとした、薄い生海苔の洋服を着てゐた。

虹

僕はいつも煤の降る工廠の裏を歩いてゐた。どんより曇つた工廠の空には虹が一すぢ消えかかつてゐた。僕は踵を擡げるやうにし、ちよつとその虹へ鼻をやつて見た。すると――かすかに石油の匂がした。

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