芥川 竜之介
鴉片
クロオド・フアレエルの作品を始めて日本に紹介したのは多分堀口大学氏であらう。僕はもう六七年前に「三田文学」の為に同氏の訳した「キツネ」艦の話を覚えてゐる。
「キツネ」艦の話は勿論、フアレエルの作品に染みてゐるものは東洋の鴉片の煙である。僕はこの頃矢野目源一氏の訳した、やはりフアレエルの「静寂の外に」を読み、もう一度この煙に触れることになつた。尤もこの「静寂の外に」は芳しい鴉片の匂の外にも死人の匂をも漂はせてゐる。「ポオとボオドレエル」兄弟商会の造つた死人の匂をも漂はせてゐる。
「おや、聞えたぞ。いや、空耳だらう。己にはわからない。死人の土地から洩れて来るにしてはあんまり音が大き過ぎる。一体ここで物の割れる音なんかするわけがない。泥溜の中で棺桶が嚔をする。――一枚の板が揺ぶられる。頑丈な釘がうちつけてあるのを恐しい音をさせて軋ませる。……」
これはポオの「Premature Burial」が大西洋の彼岸に伝へた幾多の反響の一つである。が、そんなことはどうでも好い。僕にちよつと面白かつたのは下に引用する一節である。――