伊藤 左千夫
去年
一
君は僕を誤解している。たしかに君は僕の大部分を解していてくれない。こんどのお手紙も、その友情は身にしみてありがたく拝読した。君が僕に対する切実な友情を露ほども疑わないにもかかわらず、君が僕を解しておらぬのは事実だ。こういうからとて、僕は君に対しまたこんどのお手紙に対し、けっして不平などあっていうのではないのだ。君をわかりの悪い人と思うていうのでもないのだ。
僕は考えた。
君と僕とは、境遇の差があまりにはなはだしいから、とうてい互いにあい解するということはできぬものらしい。君のごとき境遇にある人の目から見て、僕のごとき者の内面は観察も想像およぶはずのものであるまい。いかな明敏な人でも、君と僕だけ境遇が違っては、互いに心裏をくまなくあい解するなどいうことはついに不可能事であろうと思うのである。