伊藤 左千夫
紅黄録
成東の停車場をおりて、町形をした家並みを出ると、なつかしい故郷の村が目の前に見える。十町ばかり一目に見渡す青田のたんぼの中を、まっすぐに通った県道、その取付きの一構え、わが生家の森の木間から変わりなき家倉の屋根が見えて心も落ちついた。
秋近き空の色、照りつける三時過ぎの強き日光、すこぶるあついけれども、空気はおのずから澄み渡って、さわやかな風のそよぎがはなはだ心持ちがよい。一台の車にわが子ふたりを乗せ予は後からついてゆく。妹が大きいから後から見ると、どちらが姉か妹かわからぬ。ふたりはしきりに頭を動かして話をする。姉のは黄色く妹のは紅色のりぼんがまた同じようにひらひらと風になびく。予は後から二児の姿を見つつ、父という感念がいまさらのように、しみじみと身にこたえる。
「お父さんあれ家だろう。あたいおぼえてるよ」
「あたいだって知ってら、うれしいなァ」