海野 十三

西湖の屍人

1

銀座裏の酒場、サロン船を出たときには、二人とも、ひどく酩酊していた。

私は私で、黄色い疎らな街燈に照らしだされた馴染の裏街が、まるで水の中に漬っているような気がしたし、帆村のやつは帆村のやつで、黒いソフトを名猿シドニーのように横ちょに被り、洋杖がタンゴを踊りながら彼の長い二本の脛をひきずってゆくといった恰好だった。

私はそれでも、ロマンチストだから構わないようなものの、かれ帆村なるものは、商売が私立探偵ではないか。帽子の天頂から靴の裏底まで、およそリアリズムであるべきだった。しかるに今夜、彼はそれ等の特徴を見事ふりおとして、身体中が隙だらけであるかのように見えた。もし彼に怨恨のある前科者どもが、短刀逆手に現われたとしたらどうするだろうと、私は気になって仕方がなかった。

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