海野 十三
空襲葬送曲
父の誕生日に瓦斯マスクの贈物
「やあ、くたびれた、くたびれた」家中に響きわたるような大声をあげて、大旦那の長造が帰って来た。
「おかえりなさいまし」お内儀のお妻は、夫の手から、印鑑や書付の入った小さい折鞄をうけとると、仏壇の前へ載せ、それから着換えの羽織を衣桁から取って、長造の背後からフワリと着せてやった。「すこし時間がおかかりなすったようね」
「ウン。――」長造は、言おうか言うまいかと、鳥渡考えたのち「こう世間が不景気で萎びちゃっちゃあ、何もかもお終いだナ」
海野 十三
父の誕生日に瓦斯マスクの贈物
「やあ、くたびれた、くたびれた」家中に響きわたるような大声をあげて、大旦那の長造が帰って来た。
「おかえりなさいまし」お内儀のお妻は、夫の手から、印鑑や書付の入った小さい折鞄をうけとると、仏壇の前へ載せ、それから着換えの羽織を衣桁から取って、長造の背後からフワリと着せてやった。「すこし時間がおかかりなすったようね」
「ウン。――」長造は、言おうか言うまいかと、鳥渡考えたのち「こう世間が不景気で萎びちゃっちゃあ、何もかもお終いだナ」