海野 十三

赤外線男

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この奇怪極まる探偵事件に、主人公を勤める「赤外線男」なるものは、一体全体何者であるか? それはまたどうした風変りの人間なのであるか? 恐らくこの世に於て、いまだ曾て認識されたことのなかった「赤外線男」という不思議な存在――それを説明する前に筆者は是非とも、ついこのあいだ東都に起って、もう既に市民の記憶から消えようとしている一迷宮事件について述べなければならない。

これは事件というには、実にあまりに単純すぎるために、もう忘れてしまった人が多いようであるが、しかし知る人ぞ知るで、識っている人にとっては、これ又奇怪な事件であることに、この迷宮事件が後になって、例の摩訶不思議な「赤外線男」事件を解く一つの重大なる鍵の役目を演じたことを思えば、尚更逸することのできない話である。

なんかと云って筆者は、話の最初に於て、安薬の効能のような台辞をあまりクドクドと述べたてている厚顔さに、自分自身でも夙くに気付いているのではあるが、しかしそれも「赤外線男」事件が本当に解決され、その主人公がマスクをかなぐり捨てたときの彼の大きな駭きと奇妙な感激とを思えば、一見思わせたっぷりなこの言草も、結局大した罪にならないと考えられる。――

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