岡本 かの子

母子叙情

かの女は、一足さきに玄関まえの庭に出て、主人逸作の出て来るのを待ち受けていた。

夕食ごろから静まりかけていた春のならいの激しい風は、もうぴったり納まって、ところどころ屑や葉を吹き溜めた箇所だけに、狼藉の痕を残している。十坪程の表庭の草木は、硝子箱の中の標本のように、くっきり茎目立って、一きわ明るい日暮れ前の光線に、形を截り出されている。

「まるで真空のような夕方だ」

それは夜の九時過ぎまでも明るい欧洲の夏の夕暮に似ていると、かの女はあたりを珍しがりながら、見廻している。

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