岡本 綺堂

中国怪奇小説集

第五の男は語る。

「唯今は『酉陽雑爼』と『宣室志』のお話がありました。そこで、わたくしには其の拾遺といったような意味で、唐代の怪談総まくりのようなものを話せという御注文ですが、これはなかなか大変でございます。とても短い時間に出来ることではありません。勿論、著名の物を少々ばかり紹介いたすに過ぎないと御承知ください。就きましては、まず『白猿伝』を申し上げます。この作者の名は伝わって居りません。唐に欧陽詢という大学者がありまして、後に渤海男に封ぜられましたが、この人の顔が猿に似ているというので、或る人がいたずらにこんな伝奇を創作したのであって、本当に有った事ではないという説があります。しかし〈志怪の書〉について、その事実の有無を論議するのは、無用の弁に近いかとも思われます。ともかくも古来有名な物になって居りまして、かの頼光の大江山入りなども恐らくこれが粉本であろうと思われますから、事実の有無を問わず、ここに紹介することに致します。

そのほかには、原化記、朝野僉載、博異記、伝奇、広異記、幻異志などから、面白そうな話を選んで申し上げたいと存じます。これらもみな有名の著作でありまして、一つ一つ独立して紹介するの価値があるのでございますが、あとがつかえて居りますから、そのなかで特色のあるお話を幾つか拾い出すにとどめて置きます。右あらかじめお含み置きください」

白猿伝

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