折口 信夫
鬼の話
一 おにと神と
「おに」と言ふ語にも、昔から諸説があつて、今は外来語だとするのが最勢力があるが、おには正確に「鬼」でなければならないと言ふ用語例はないのだから、わたしは外来語ではないと思うてゐる。さて、日本の古代の信仰の方面では、かみ(神)と、おに(鬼)と、たま(霊)と、ものとの四つが、代表的なものであつたから、此等に就て、総括的に述べたいと思ふのである。
鬼は怖いもの、神も現今の様に抽象的なものではなくて、もつと畏しいものであつた。今日の様に考へられ出したのは、神自身の向上した為である。たまは眼に見え、輝くもので、形はまるいのである。ものは、極抽象的で、姿は考へないのが普通であつた。此は、平安朝に入つてから、勢力が現れたのである。
おには「鬼」といふ漢字に飜された為に、意味も固定して、人の死んだものが鬼である、と考へられる様になつて了うたのであるが、もとは、どんなものを斥しておにと称したのであらうか。