菊池 寛

真珠夫人

奇禍

一

汽車が大船を離れた頃から、信一郎の心は、段々烈しくなつて行く焦燥しさで、満たされてゐた。国府津迄の、まだ五つも六つもある駅毎に、汽車が小刻みに、停車せねばならぬことが、彼の心持を可なり、いら立たせてゐるのであつた。

彼は、一刻も早く静子に、会ひたかつた。そして彼の愛撫に、渇ゑてゐる彼女を、思ふさま、いたはつてやりたかつた。

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