織田 作之助
猿飛佐助
火遁巻
千曲川に河童が棲んでいた昔の話である。
この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙(千)人で狐狸かためた新手村では、信州にかくれもなき怪しげな年中行事が行われ、毎年大晦日の夜、氏神詣りの村人同志が境内の暗闇にまぎれて、互いに悪口を言い争ったという。
誰彼の差別も容赦もあらあらしく、老若男女入りみだれて、言い勝ちに、出任せ放題の悪口をわめき散らし、まるで一年中の悪口雑言の限りを、この一晩に尽したかのような騒ぎであった。