菊池 寛
芥川の事ども
芥川の死について、いろいろな事が、書けそうで、そのくせ書き出してみると、何も書けない。
死因については我々にもハッキリしたことは分らない。分らないのではなく結局、世人を首肯させるに足るような具体的な原因はないと言うのが、本当だろう。結局、芥川自身が、言っているように主なる原因は「ボンヤリした不安」であろう。
それに、二、三年来の身体的疲労、神経衰弱、わずらわしき世俗的苦労、そんなものが、彼の絶望的な人生観をいよいよ深くして、あんな結果になったのだろうと思う。
昨年の彼の病苦は、かなり彼の心身をさいなんだ。神経衰弱から来る、不眠症、破壊された胃腸、持病の痔などは、相互にからみ合って、彼の生活力を奪ったらしい。こうした病苦になやまされて、彼の自殺は、徐々に決心されたのだろう。