木下 杢太郎
すかんぽ
字引で見ると、すかんぽの和名は須之であると云ふ。東京ではすかんぽといふ。われわれの郷里ではととぐさと呼んだ。漢名は酸模または※蕪[#「くさかんむり/(歹+食)」、259-中-9]である。日本植物圖鑑ではすいばと云ふのが普通の名稱として認められてゐる。今はさう云ふ事が億劫であるから、此植物に關する本草學的の詮索は御免を蒙る。
震災前、即ち改築前の大學の庭には此草が毎年繁茂して、五月なかばには紅緑の粒を雜へた可憐な花の穗が夕映のくさむらに目立つた。學生として僕ははやく此草の存在に注意した。其花の莖とたんぽぽの冠毛の白い硝子玉とを配して作つたスケッチは齋藤茂吉君の舊い歌集の※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)繪として用ゐられた。
此植物は僕には舊いなじみである。まだ小學校に上つて間もない時分、年上の惡少にそそのかされて、春の末、荒野の岡に行つた。
「紙に包んでな、鹽を持つて行くのだよ。」