甲賀 三郎

青服の男

奇怪な死人

別荘――といっても、二昔も以前に建てられて、近頃では余り人が住んだらしくない、古めかしい家の中から、一人の百姓女が毬のように飛出して来た。

「た、大へんだア、旦那さまがオッ死んでるだア」

之が夏なら街路にはもう人の往来もあろうし、こんな叫び声が聞えたら、あすこ、こゝの別荘から忽ち多勢の人が飛んで来ようが、今は季節外れの十二月で、殊にこの別荘地帯は茅ヶ崎でも早く開けた方で、古びた家が広々と庭を取って、ポツン/\と並んでいる上に、どれも之も揃って空家と来ているので、誰一人応ずる者はない。百姓女の叫び声は、徒らにシーンとした朝の空気に反響するばかりである。

青空文庫の作品カード