小酒井 不木

愚人の毒

1

ここは××署の訊問室である。

生ぬるい風が思い出したように、街路の塵埃を運び込むほかには、開け放たれた窓の効能の少しもあらわれぬ真夏の午後である。いまにも、柱時計が止まりはしないかと思われる暑さをものともせず、三人の洋服を着た紳士が一つの机の片側に並んで、ときどき扇を使いながら、やがて入ってくるはずの人を待っていた。

向かっていちばん左に陣取った三人のうちいちばん若いのが津村検事で、額が広く目が鋭く髭がない。中央の白髪交じりの頭が藤井署長、署長の右に禿げた頭を金縁眼鏡と頬髯とで締め括ってゆったりと腰かけているのが、法医学者として名高いT大学医学部教授片田博士である。職務とは言いながら、片肌脱ぎたいくらいな暑さを我慢して滲み出る汗をハンカチに吸いとらせている姿を見たならばだれでも冗談でなしに、お役目ご苦労と言いたくなる。

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