芥川 竜之介
死後
……僕は床へはいっても、何か本を読まないと、寝つかれない習慣を持っている。のみならずいくら本を読んでも、寝つかれないことさえ稀ではない。こう言う僕の枕もとにはいつも読書用の電燈だのアダリン錠の罎だのが並んでいる。その晩も僕はふだんのように本を二三冊蚊帳の中へ持ちこみ、枕もとの電燈を明るくした。
「何時?」
これはとうに一寝入りした、隣の床にいる妻の声だった。妻は赤児に腕枕をさせ、ま横にこちらを眺めていた。
「三時だ。」
芥川 竜之介
……僕は床へはいっても、何か本を読まないと、寝つかれない習慣を持っている。のみならずいくら本を読んでも、寝つかれないことさえ稀ではない。こう言う僕の枕もとにはいつも読書用の電燈だのアダリン錠の罎だのが並んでいる。その晩も僕はふだんのように本を二三冊蚊帳の中へ持ちこみ、枕もとの電燈を明るくした。
「何時?」
これはとうに一寝入りした、隣の床にいる妻の声だった。妻は赤児に腕枕をさせ、ま横にこちらを眺めていた。
「三時だ。」