小林 多喜二
工場細胞
上 一
金網の張ってある窓枠に両手がかゝって――その指先きに力が入ったと思うと、男の顔が窓に浮かんできた。
昼になる少し前だった。「H・S製罐工場」では、五ラインの錻刀切断機、胴付機、縁曲機、罐巻締機、漏気試験機がコンクリートで固めた床を震わしながら、耳をろうする音響をトタン張りの天井に反響させていた。鉄骨の梁を渡っているシャフトの滑車の各機械を結びつけている幾条ものベルトが、色々な角度に空間を切りながら、ヒタ、ヒタ、ヒタ、タ、タ、タ……と、きまった調子でたるみながら廻転していた。むせッぽい小暗い工場の中をコンヴェイヤーに乗って、機械から機械へ移っていく空罐詰が、それだけ鋭く光った。――女工たちは機械の音に逆った大きな声で唄をうたっていた。で、窓は知らずにいた。
――あらッ!