島崎 藤村
家
一
橋本の正太は、叔父を訪ねようとして、両側に樹木の多い郊外の道路へ出た。
叔父の家は広い植木屋の地内で、金目垣一つ隔てて、直にその道路へ接したような位置にある。垣根の側には、細い乾いた溝がある。人通りの少い、真空のように静かな初夏の昼過で、荷車の音もしなかった。垣根に近い窓のところからは、叔母のお雪が顔を出して、格子に取縋りながら屋外の方を眺めていた。
正太は窓の下に立った。丁度その家の前に、五歳ばかりに成る児が余念もなく遊んでいた。
島崎 藤村
一
橋本の正太は、叔父を訪ねようとして、両側に樹木の多い郊外の道路へ出た。
叔父の家は広い植木屋の地内で、金目垣一つ隔てて、直にその道路へ接したような位置にある。垣根の側には、細い乾いた溝がある。人通りの少い、真空のように静かな初夏の昼過で、荷車の音もしなかった。垣根に近い窓のところからは、叔母のお雪が顔を出して、格子に取縋りながら屋外の方を眺めていた。
正太は窓の下に立った。丁度その家の前に、五歳ばかりに成る児が余念もなく遊んでいた。