島崎 藤村
再婚について
神坂も今は秋の収穫でいそがしくもまた楽しい時と思います。
ことしの秋は、柳ちゃんを連れて神坂の土を踏みたいとは、かねてから楽しみにしていたことでしたが、いろいろの都合で十一月の初めごろに出かけることはちょっとむつかしくなりました。
さて、きょうは珍しい報告を送る思いでこのおたよりいたします。ことしの夏の初めあたりから、とうさんは自分の生活を変えようと思い立ったからです。
今までのとうさんの生活が変則で、多少不自然であることは自分でも知っていましたが、おまえたち兄妹を養育するためには、これもやむをえないことでした。長い年月の間のとうさんの苦心は、おまえも思い見てくれることでしょう。だんだんおまえたちも大きくなり、順にひとりずつ独立するようになってみれば、とうさんがまったくのひとりになる日の来ることも目に見えています。それではとうさんも何かにつけて不自由であり、第一病気でもしたときに心細くもありますから、今のうちに自分の生活を変え、晩年になって不自由しないように今からそのしたくをしたいと思います。