高神 覚昇

般若心経講義

序

いったい仏教の根本思想は何であるかということを、最も簡明に説くことは、なかなかむずかしいことではあるが、これを一言にしていえば、「空」の一字に帰するといっていいと思う。だが、その空は、仏教における一種の謎で、いわば公開せる秘密であるということができる。

何人にもわかっているようで、しかも誰にもほんとうにわかっていないのが空である。けだし、その空をば、いろいろの角度から、いろいろの立場から、いいあらわしているのが、仏教というおしえである。

ところで、その空を『心経』はどう説明しているかというに、「色即是空」と、「空即是色」の二つの方面から、これを説いているのである。すなわち、「色は即ち是れ空」とは、空のもつ否定の方面を現わし、「空は即ち是れ色」とは、空のもつ肯定の方面をいいあらわしているのである。したがって、「空」のなかには、否定と肯定、無と有との二つのものが、いわゆる弁証法的に、統一、総合されているのであって、空を理解するについて、まずわれわれのはっきり知っておかねばならぬことである。

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