宮本 百合子
無題
河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云えないほど、故国の薫りが高まって来た。
人から借りた新聞の小さい切抜きを両手に持って、私は何と云う熱心さで読んで行った事だろう!
遠い海を越えて送られて来た新聞は、「邪宗門」の僅か二三章を齎したに過ない。
けれども、私は、今殆ど歓喜に近い興奮で、「縦に並ぶ」自分の言葉を、此の懐かしい碁盤目の紙に書き付けて居る。