宮本 百合子

秋の反射

一

田舎[#「田舎」は底本では「 舎」]では何処にでも、一つの村に一人は、馬鹿や村中の厄介で生きている独りものの年寄があるものだ。敷生村では十年ばかり前、善馬鹿という白痴がいた。女子供に面白がられたり可怖がられたりしていたが、池に溺れて或る冬死んだ。それ以来幸なことに白痴は一人も出なかった。尤も、気違いが一人いたが。――三十五になる、村ではハイカラな女であった。彼女は東京に出て、墓地を埋めて建てた家を知らずに借りて住んだ。そこで二人目の子供を産んで半月立った或る夕方、茶の間に坐っていた女がいきなり亭主におこりつけた。

「いやな人! 何故其那に蓮の花なんぞ買いこんで来たんだよ、縁起がわるい!」

亭主は働きのない、蒼い輓い顔をした小男であった。

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