宮本 百合子
黒い驢馬と白い山羊
八月の十五日は、晴れた夜が多いのに、九月の十五夜は、いつも曇り勝だ。
今年は珍しく快晴で、令子も縁側から月見をした。
澄み輝き大らかな月が、ポプラーの梢の上にのぼると、月に浮かされた向う通りの家の書生達が大勢屋根へ出ていろいろな唄を唱った。令子の庭には萩が咲いて居て、やや色づきかけた石榴の実をすべった月かげが地にある。書生達の唄は響いて一種の狸囃子であった。
そのうち月は益々冴え、庭のオレゴン杉の柔かな茂みの蔭に、白い山羊が現れた。燦く白い一匹の山羊だ。
宮本 百合子
八月の十五日は、晴れた夜が多いのに、九月の十五夜は、いつも曇り勝だ。
今年は珍しく快晴で、令子も縁側から月見をした。
澄み輝き大らかな月が、ポプラーの梢の上にのぼると、月に浮かされた向う通りの家の書生達が大勢屋根へ出ていろいろな唄を唱った。令子の庭には萩が咲いて居て、やや色づきかけた石榴の実をすべった月かげが地にある。書生達の唄は響いて一種の狸囃子であった。
そのうち月は益々冴え、庭のオレゴン杉の柔かな茂みの蔭に、白い山羊が現れた。燦く白い一匹の山羊だ。