宮本 百合子

繊細な美の観賞と云う事について

「春」と云う名のもたらした自然の賜物の中にすべての美がこめられて私達の目前に日毎に育って居る。

晴ればれと高い空を見ながら木蓮の白い花が青と紫の中に浮いて居るのを見ながら、私の心は驚くばかりの美を感謝もし讚えても居る。

「美」と云うものを幾度も幾度も口に云い筆先に現わすのはあんまり好い事ではないかもしれないけれ共私はだまって居る事は出来ない。

嬉しい時に小声な歌を唄いたくなる様に低く小さくそしてつぶやく様にでも私は何か云わなければならない気持になって居る。

青空文庫の作品カード