宮本 百合子
草の根元
五時に近い日差しが、ガラス窓にうす黄色くまどろんで居る。
さっきまで、上を向いて見ると、眼の底から涙のにじみ出すほど隈なくはれ渡って、碧い色をして居た空にいつの間にかモヤモヤした煤の様な雲が一杯になってしまって居る。
桜が咲きかけて居るのに、晩秋の様な日光を見て居ると、何となくじめじめした沈んだ気になる。
暖かなので開け放した部屋が急にガランとして見えて、母が居ない家中は、どことなし気が落ちつかない。火がないので、真黒にむさくるしいストーブを見ながら、頬杖をついて、私はもう随分さっきから置いてきぼりにされた様な様子をして居る。