宮本 百合子

暁光

去年の九月に、只一人の妹を失った事は、まことに私にとっては大打撃であって、今までに且つて経験した事のない悲しみと、厳かさを感じさせられた。

「時」のたゆみない力のために、それについての事々が記憶から、消される時のあるのを思うて、書いた「悲しめる心」は、それを見る毎に、涙がこぼれる様な、痛ましい記録となって、私の傍に残って居る。

自分が、非常に望をかけて居た者を、不意に、素方から飛び出した者の手に、奪われてしまったと云う事は、どんなに私を失望させた事だろう。

その当時から見れば、素より薄らいで居るには違いないけれ共、フトその名を云い出された時や何かは、云い知らぬ淋しさに襲われて居た。

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