田中 貢太郎
賈后と小吏
盗尉部の小吏に美貌の青年があった。盗尉部の小吏といえば今なら警視庁の巡査か雇員というところだろう。そして、その青年は厮役の賤を給し升斗の糧を謀ったというから、使丁か雑役夫位の給料をもらって、やっと生活していたものと見える。
その美貌の青年が某日、晋の都となっている洛陽の郊外を歩いていた。上官の命令で巡回していたか、それとも金の工面に往っていたか、それは解らないがとにかく郊外の小路を歩いていると、
「もし、もし」
と、いって声をかける者があった。青年はどうした人だろうと思ってその方に眼をやった。そこには白髪の老嫗が立っていた。老嫗は穏やかなゆとりのある詞で言った。