田中 貢太郎

蕎麦餅

唐の元和年中のことであった。許州の趙季和という男が東都に往く要事が出来たので、家を出て卞州の西になった板橋店まで往った。

その板橋店には三娘子という宿屋があった。そこには三娘子という独身者の寡婦がいて、永い間旅人に食物を売る傍ら、数多の驢馬を飼って非常に安価で売るので、板橋店の三娘子といえば驢馬の店としても有名であった。旅人の季和も一泊りも二泊りも前からその名を聞いていたので、板橋店に入るとその家を尋ねて往った。

もう日が暮れて燈火が点いていた。季和が門口へ往って扉を叩くと、瘠せた婆さんが顔を出した。季和はすぐそれがお媽さんの三娘子であろうと思って、

「お宅が、旅人に深切にしてくれるということを聞いて尋ねてきました、今晩どうか泊めてください」

青空文庫の作品カード