田中 貢太郎
柳毅伝
唐の高宗の時に柳毅という書生があった。文官試験を受けたが合格しなかったので、故郷の呉に帰るつもりで※(「さんずい+徑のつくり」、第3水準1-86-75)川の畔まで帰ってきたが、その※(「さんずい+徑のつくり」、第3水準1-86-75)川の北岸に同郷の者が住んでいた。毅はまず知人の許へ立ち寄り、やがて別れて六七里も行ったところで、路傍におりていた鳥の群がばたばたと立って飛んだので、馬がその羽音に驚いて左へそれて走った。そして六七里も矢のように行ったかと思うと、ぴったり止ってしまった。柳毅は馬の頭を向けなおして本道へ出ようとして、ふと見ると羊を伴れた若い女が路ぶちに立っていた。それは品のある綺麗な女であったが、何か悲しいことでもあるのか涙ぐましい顔をしていた。柳毅は磊落な、思ったことはなんでも口にするという豪快な質の男であった。
「貴女のような美人が、どうしてそんなことをしているのです」
女は淋しそうに笑った。
「私は、洞庭の竜王の女でございます。両親の命で、※(「さんずい+徑のつくり」、第3水準1-86-75)川の次男に嫁づいておりましたが、夫が道楽者で、賤しい女に惑わされて、私を省みてくれませんから、お父さんとお母さんに訴えますと、お父さんも、お母さんも、自分の小児の肩を持って、私を虐待して追いだしました、私はこのことを洞庭の方へ言ってやりたいと思いますが、路が遠いので困っております、貴郎は呉にお帰りのようでございますが、どうか手紙を洞庭まで届けて戴けますまいか」