田中 貢太郎

陳宝祠

杜陽と僕の二人は山道にかかっていた。足がかりのない山腹の巌から巌へ木をわたしてしつらえた桟道には、ところどころ深い壑底の覗かれる穴が開いていて魂をひやひやさした。その壑底には巨木が森々と茂っていて、それが吹きあげる風に枝葉をゆうらりゆらりと動かすのが幽に見えた。

壑の前方の峰の凹みに陽が落ちかけていた。情熱のなくなったような冷たいその光が微赤く此方の峰の一角を染めて、どこかで老鶯の声が聞えていた。杜陽は日が暮れないうちに、宿駅のある処へ往こうと思って気があせっていた。

その数年間、年に一二度は往復している途であるが、一歩を過れば生死のはかられない道であるから思うようには急げなかった。彼は蒲東から興安へ出て布店をやっている舅の許にいて、秦晋の間を行商している者で、その時は興安へ帰るところであった。

その日は褒斜を朝早く出発していた。その危険な道の中でもわけて危険な処があると、二十歳になったばかりの若い主人は僕に注意した。

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