田中 貢太郎
蓮香
桑生は泝州の生れであって、名は暁、字は子明、少い時に両親に死別れて紅花埠という所に下宿していた。この桑は生れつき静かなやわらぎのある生活を喜ぶ男で、東隣の家へ往って食事をする他は、自分の座にきちんと坐っていた。あの日[#「あの日」はママ]、東隣にいる男が来て冗談に言った。
「君は独りいるが、鬼や狐はこわくないのかい」
桑は言った。
「男子が鬼や狐をこわがってどうする、もしくれば僕には剣があるさ、それも女なら門を開けて納れてやるがね」
田中 貢太郎
桑生は泝州の生れであって、名は暁、字は子明、少い時に両親に死別れて紅花埠という所に下宿していた。この桑は生れつき静かなやわらぎのある生活を喜ぶ男で、東隣の家へ往って食事をする他は、自分の座にきちんと坐っていた。あの日[#「あの日」はママ]、東隣にいる男が来て冗談に言った。
「君は独りいるが、鬼や狐はこわくないのかい」
桑は言った。
「男子が鬼や狐をこわがってどうする、もしくれば僕には剣があるさ、それも女なら門を開けて納れてやるがね」