寺田 寅彦

旅日記から

一 シャンハイ

四月一日

朝のうちには緑色をしていた海がだんだんに黄みを帯びて来ておしまいにはまっ黄色くなってしまった。船の歩みはのろくなった。艫のほうでは引っ切りなしに測深機を投げて船あしをさぐっている。とうとう船が止まった。推進機でかきまぜた泥水が恐ろしく大きな渦を作って潮に流されて行く。右舷に遠くねずみ色に低い陸地が見える。

日本から根気よく船について来た鴎の数がだんだんに減ってけさはわずかに二三羽ぐらいになっていたが、いつのまにかまた数がふえている。これはたぶんシナの鴎だろう。

青空文庫の作品カード