浜尾 四郎
殺された天一坊
一
あれ程迄世間を騒がせた天一坊も、とうとうお処刑となって、獄門に梟けられてしまいました。あの男の体は亡びてもあの悪名はいつ迄もいつ迄も永く伝えられる事でございましょう。世にも稀な大悪人、天下を騙し取ろうとした大かたり、こんな恐ろしい名が、きっとあの男に永く永くつき纏うに違いございませぬ。
私のようなふつつか者が廻らぬ筆をとりましたのも、その事を考えましたからでございます。私からはっきりと申しますれば、あの男こそ世にも愚かな若人なのでございます。けれども決して大悪人ではございませんでした。
ああした不思議な運命に生みつけられた人間はおとなしく此の有難い御治世の、どこかの片隅にじッと暮して行けばよかったのでございましょう。