林 芙美子
清貧の書
一
私はもう長い間、一人で住みたいと云う事を願って暮した。古里も、古里の家族達の事も忘れ果てて今なお私の戸籍の上は、真白いままで遠い肉親の記憶の中から薄れかけようとしている。
ただひとり母だけは、跌ずき勝ちな私に度々手紙をくれて叱って云う事は、――
おまえは、おかあさんでも、おとこうんがわるうて、くろうしていると、ふてくされてみえるが、よう、むねにてをあててかんがえてみい。しっかりものじゃ、ゆうて、おまえを、しんようしていても、そうそう、おとこさんのなまえがちごうては、わしもくるしいけに、さっち五円おくってくれとあったが、ばばさがしんで、そうれんもだされんのを、しってであろう。あんなひとじゃけに、おとうさんも、ほんのこて、しんぼうしなはって、このごろは、めしのうえに、しょおゆうかけた、べんとうだけもって、かいへいだんに、せきたんはこびにいっておんなはる、五円なおくれんけん、二円ばいれとく、しんぼうしなはい。てがみかくのも、いちんちがかりで、あたまがいとうなる。かえろうごとあったら、二人でもどんなさい。