葉山 嘉樹

井戸の底に埃の溜つた話

よく田舎にある、野つ原の真ん中に、灌木だの歯朶だのに、穴の縁を茂らせて、底には石や土が、埋めかけて匙を投げてある、あの古井戸の底になら、埃が溜つたつて、別に面白くも可笑しくもない。

ところが、私の今云はうとしてゐる井戸は、一方には夫婦と三人の子供、もう一方には夫婦と二人の子供が、現在住んでゐる、その共通の井戸の事なのである。

その共同の井戸に、然も蓋がしてあるのに、埃が底に溜つてしまつたのである。

空気だの、日光だの、水などと云ふものは、そいつがふんだんにある場合には、些も不自由を感じないし、従つて有難味も分らないものだが、一旦、無いとなると、さあ事だ。

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