松本 泰
暴風雨に終わった一日
バルコニーの外は低い砂丘を一つ越して、青空にくっきりと限られた代赭色の岩鼻岬、その中腹の白い記念塔、岬の先端の兜岩、なだらかな弧を描いている波打ち際、いつも同じ絵であった。ただ、その朝は水平線の上が刷毛で刷いたように明るく、遠くの沖を簪船が二隻も三隻も通っていくのが見えた。つい近くの波間に遊んでいた数羽の水禽が翼を並べて、兜岩のほうへ立っていった。今朝もまた、青首(鴨)が来ている。
――二月二日。十二年前、喜望峰の波止場で、朝霧の立ち込めた穏やかな海上を大きな水禽が群れをなして水とすれすれに翔んでいた光景を思い出す。
英国ミッドランドのバートント家の猟場。
その晩の男ばかりの数人の食卓に、給仕女に扮してわたしの傍に立った令嬢イサベル。それは彼女の愉快な冒険であった。二度目に彼女に会ったのは、それから数カ月を経たロンドンのあるウイークデーの、閑寂な朝の公園であったっけ。この奇遇は二人を結びつけてくれたが、彼女の父は娘を田舎の荘園に追い、わたしは危うく決闘を申し込まれるところであった。