宮本 百合子

三月の第四日曜

一

コト。コト。遠慮がちな物音だのに、それがいやに自分にも耳立って聞えるような明け方の電燈の下で羽織の紐を結んでしまうと、サイは立鏡を片よせて、中腰のままそのつもりでゆうべ買って来ておいたジャムパンの袋をあけた。

寝が足りないのと何とはなし気がせき立っているのとで、乾いたパンは口のなかの水気を吸いとるばかりでなかなか喉を通りにくい。一つをやっと食べたきりで袋を握って隅っこへ押しつけ、ハンドバッグとショールとをかかえて台処へ出た。

水口がもうあいている。ポンプと同じさしかけのところで燃えついたばかりの竈が薪のはぜる音をさせている。その煙に交ってふき出す焔の色が、あたりにまだのこっている眠りの深さを感じさせる。サイが新聞包からよそゆき下駄を出していると、遠くの闇を衝き破るような勢で始発間もない省線が通る音が風にのって来た。

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