ヒルシュフェルド ゲオルヒ

防火栓

度度噂のあつた事が、いよ/\実行せられると聞いた時、市中の人民は次第に興奮して来た。これまで毎年ロオデンシヤイド市に来る曲馬師の組は、普通の天幕の中で興行したのだが、それはもう罷められる。旅興行が定興行になる。お寺のすぐ脇のマリアの辻には、鉄骨の大曲馬場が立つ。五千人入である。やれ/\安心だ。さうなれば、誰でも往かれる。そのうち番附が出た。どの番組が早く見たいと云はうか、どうも気が迷つてならない。水藝をする白熊十七匹も、アラビア沙漠の十匹の牝馬も火踊をするコブラ嬢も、音楽のわかる道化師トロツテルも、どれも/\見たい。

一月一日の場所開きには、二興行ある。一つは午後三時に始まるので、今一つは午後七時に始まるのである。札はどちらも疾つくに売り切れた。これまで度度難儀に逢つて来た市立劇場の座主は、妬ましげに此人気を見てゐる。いやはや。己なんぞはワグネルを聞せて遣つたり、イブセンを見せて遣つたりする。一歩進んでバアナアド・シヨオをも見せて遣る。所が人の見たがるのは白熊や手長猿だ。ロオデンシヤイド市の物のわかる連中に来て貰はうと思つて、何遍も骨を折つて見た。所が誰も来てはくれない。それがどうだ。今あの曲馬になら、人波を打つて押し寄せる。しかもなんと云ふ景気だ。

午後興行の大入と云つたら無い。大きな建物が殆どきい/\鳴つてゐる。織屋や鉱山稼の人達が女房子供を連れて来てすわり込んでゐる。休日にもまだ炭の粉や器械油の附いてゐる、胼胝の出来た手が鳴る。これが本当のおなぐさみだ。一週間の、残酷な日傭稼の苦も忘れられる。鉱山の坑の闇が不思議の赫きになつて、歎息の声が哄笑の声になる。丸で種類の変つた人

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