アルチバシェッフ ミハイル・ペトローヴィチ
死
医学士ウラヂミル・イワノヰツチユ・ソロドフニコフは毎晩六時に、病用さへなければ、本町へ散歩に行くことにしてゐた。大抵本町で誰か知る人に逢つて、一しよに往つたり来たりして、それから倶楽部へ行つて、新聞を読んだり、玉を突いたりするのである。
然るに或日天気が悪かつた。早朝から濃い灰色の雲が空を蔽つてゐて、空気が湿つぽく、風が吹いてゐる。本町に出て見たが、巡査がぢつとして立つてゐる外に、人が一人もゐない。
ソロドフニコフは本町の詰まで行つて、踵を旋らして、これからすぐに倶楽部へ行かうと思つた。その時誰やら向うから来た。それを見ると、知つた人で、歩兵見習士官ゴロロボフといふ人であつた。此人の癖で、いつものわざとらしい早足で、肩に綿の入れてある服の肩を怒らせて、矢張胸に綿の入れてある服の胸を張つて、元気好く漆沓の足を踏み締めて、ぬかるみ道を歩いてゐる。
見習士官が丁度自分の前へ来たとき、ソロドフニコフが云つた。「いや。相変らずお元気ですな。」