夢野 久作
ココナットの実
妾は今、神戸海岸通りのレストラン・エイシャの隅ッこに、ちょこりんと腰をかけている。油気のない前髪をういういしく垂らして、紫ミラネーゼの派手な振袖を着て、金ピカの塩瀬を色気よく高々と背負っているのだから、ウッカリした男の眼には十四五ぐらいにしか、うつらないでしょうよ。どうぞ、そのおつもりでネ……ホホホホホ……。
妾の手にはタッタ今ボーイさんが買って来てくれた号外が一枚載っている。これは今から三時間ばかし前に、ここから二三町先の海岸通りの横町で起った事件で、あちこちのテーブルに固まっている男のお客たちも首をつき合わせながら引っぱり合っている。西洋人までが鹿爪らしく耳を傾げているせいか室の中が急にシンカンとなっている。妾もその中の大きな活字だけを拾い読みしてみると……この号外をここに挟んでおくわ……ごらんの通りトテモ大変な活字だらけなの……。
――財界のムッソリニ、高利貸王、赤岩権六氏粉砕さる――
――本日午後五時頃、同氏経営の通称ゴンロク・アパート前、海岸通横町街路上で――××党の爆弾か? 路面のアスファルトに二個の大穴――