夢野 久作
戦場
はしがき
この一文は目下、埃及のカイロ市で外科病院を開業している芬蘭[#「芬蘭」はママ]生まれの独逸医学博士、仏蘭西文学博士オルクス・クラデル氏が筆者に送ってくれた論文?「戦争の裡面」中の、戦場描写の部分である。原文は同氏の手記に係る独逸語であるが、今まで世界のどこにも発表されたことのない、珍らしいものである。
当時、中欧最強の新興国として、現在の日本と同じように、全世界の砲門を睨み返していた彼のモノスゴイ独逸魂の、血潮したたる生々しい断面を、この一文によって読者諸君は眼のあたり見る事が出来るであろう。
オルクス・クラデル氏は、欧洲大戦終了後、一時長崎の某外科病院(日本人経営)に傭医員として、来ていたことがある。それが、或る軍事上の研究の使命を帯びていたものであることは、この論文中の他の部分に於て察知出来るのである。