夢野 久作

木魂

……俺はどうしてコンナ処に立ち佇まっているのだろう……踏切線路の中央に突立って、自分の足下をボンヤリ見詰めているのだろう……汽車が来たら轢き殺されるかも知れないのに……。

そう気が付くと同時に彼は、今にも汽車に轢かれそうな不吉な予感を、背中一面にゾクゾクと感じた。霜で真白になっている軌条の左右をキョロキョロと見まわした。それから度の強い近眼鏡の視線を今一度自分の足下に落すと、霜混りの泥と、枯葉にまみれた兵隊靴で、半分腐りかかった踏切板をコツンコツンと蹴ってみた。それから汗じみた教員の制帽を冠り直して、古ぼけた詰襟の上衣の上から羊羹色の釣鐘マントを引っかけ直しながら、タッタ今通り抜けて来た枯木林の向うに透いて見える自分の家の亜鉛屋根を振り返った。

……一体俺は、今の今まで何を考えていたのだろう……。

彼はこの頃、持病の不眠症が嵩じた結果、頭が非常に悪るくなっている事を自覚していた。殊に昨日は正午過ぎから寒さがグングン締まって来て、トテモ眠れそうにないと思われたので、飲めもしない酒を買って来て、ホンの五勺ばかり冷のまま飲んで眠ったせいか、今朝になってみると特別に頭がフラフラして、シクンシクンと痛むような重苦しさを脳髄の中心に感じているのであった。その頭を絞るように彼は、薄い眉をグット引寄せながら、爪先に粘り付いている赤い泥を凝視めた。

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